「生きものたちとぼくらのはなし」




地球は46億年前に誕生してから気温は大きく乱高下を繰り返していました。
ホモ・サピエンスと言われる人間が誕生するのがおよそ20万年前、
人は狩猟民族として暮らしていました。しかし、およそ1万年前から自然の
バランスによって気候が奇跡的に安定し、平均気温がプラスマイナス1度に
保たれました。この時代を地質学的に完新世と言います。
この気候の安定により季節が生まれ、海面も安定し、人は作物を作り始めた。
食料が安定したことで人は少しずつ増え、やがて文明が生まれました。
しかし1万年続いたこの気候の安定を人はわずか200年足らずで壊してしまったのです。


地質学によると地球の生き物はこれまでに5回の大量絶滅を経験しているそうです。
その一番最後が恐竜の絶滅です。6600万年前。それは巨大な隕石の落下によって
引き起こされた気候の変化が原因と言われています。
その前の4回はどうだったのか、これらもやはり気候の変動が発端となったと
考えられています。地球は何百万年という時をかけ火山の噴火などによって
二酸化炭素濃度が上がり温暖化に向かうそうです。
現代人はそれと同じことを石油や石炭を掘り起こし燃やすこと、吸収源である海や森
の自然を壊すことで、あっという間に気候を変えてしまったのです。

一度バランスを崩してしまえば気候の安定は壊れます。1万年溶けることのなかった
北極南極の氷床は溶け始めています。それは一定のレベルを超えるともう止めることが
できなくなると言われています。そこから様々な連鎖反応で気温上昇は加速します。
IPCCの報告によると平均気温プラス1.5度、それが気温の限界値。
今のままでは2030年にはそれに到達してしまいます。この十年が人類の存続をかけた
勝負の十年と言われているのです。すでに動物たちは半数以上は絶滅の危機にあります。
6回目の大量絶滅はすでに始まっているのかもしれません。



完新世の間、地球の気候が安定していたのは北極南極の氷、北方林、熱帯雨林や森、
海などの自然のバランスが保たれたからです。このバランスを取っていたのがそこに住む
動物や植物、昆虫、微生物などの生き物たち。彼らがそこで暮らす循環、食物連鎖など
で自然は安定を保たれていたのです。つまり完新世は動物たちによって保たれた時代なのです。


やがて人は地球上の覇者となり自然環境を破壊し続け、生きものたちのバランスは壊れて
しまいました。そのことが気候危機の大きな原因なのです。


今は完新世が終わり人間の活動が地球に影響を与える人新世という時代に入ったとも
言われています。人の行動が地球そのものに大きく影響する時代です。70億人にも膨れ
上がった人類がこれまでのように自分勝手に行動すれば地球は崩壊します。
もしも責任のある生き方に変えることが出来れば地球を守ることもできる。
そんな時代ということです。このままでは地球環境は取り返しのつかない状況になります。
完新世の安定を離れ不安定な気候状態の世界では農業も安定せず食糧も水も不足します。
世界中で起こる大規模な自然災害に人は文明を維持することが難しくなります。
この気候の安定があったからこそ人は文明を築くことができた。
膨れ上がった人類には地球は既に無限の惑星ではないのです。


人類は豊かな自然と生物の多様性を取り戻し、気候をもう一度、完新世の時代に
引き戻さなくてはいけません。生物の多様性は自然を安定させるだけではなく、
回復させる力もあります。その為に生き物の暮らす環境を回復させる必要が有ります。
人間がやらなくてはならないことはまず、「海を豊かにすること」
「森や熱帯雨林を豊かにすること」「近代農業で荒廃した土地を再生させること」
さらに「化石燃料の使用を止めること」です。


多様な魚たちと海洋植物によって海には空気中の炭素を沢山取り込むことができます。
魚を蘇らせるには商業漁業による乱獲を止めることです。大規模な引き網漁では
魚の40%は目的以外の魚たち。多くはすでに死んだ状態で処分されているそうです。
その中にはイルカやサメやウミガメなども多く含まれます。
プラスチックの誤飲で死ぬことがよく話題になりますがそれの何倍もの数が乱獲によって
死んでいます。こういった漁業などによって海の生物は大幅に減少し絶滅の危機に瀕しています。
森林伐採の主な原因の一つに大規模な畜産農業があります。
お肉の消費量は世界で年々増え続けています。
それに対応する為、家畜のエサを作る農地を増やそうと地球環境にとって大切な
役割を持つ熱帯雨林のアマゾンは次々と伐採され続け、多くの動物たちが住みかを失い
絶滅の危機にあるのです。
農地の荒廃は農薬や化学肥料の大量使用と近代農業にあります。
微生物が育つ健康な土壌は海と森と同様に多くの炭素を大地に取り込みます。
その中で生きる微生物や昆虫たちも地球環境を維持する大きな役割を持ちながら
多くの種が消えようとしているのです。


これらの問題はとても規模の大きなことのように思われるかも知れませんが、
実は「一人一人の暮らし方を変えること」で改善できると思うのです。
「肉や魚の消費を減らし、国産、地元産の野菜を中心にした食事に切り替える」
これを実践することで海や森や熱帯雨林を回復させ、農地の荒廃を止めることができる。
映画「ゲームチェンジャー」にもありますが、世界中のトップアスリートは肉食を止め、
大豆などの植物性たんぱく質に切り替えることで、より効率よく筋力もアップして
結果を残しています。定説である「肉を食べないと強くなれない」はどうやら現代人の
思い込みのようです。肉や魚を完全に止める必要はありません、しかし自然に負荷を
かけないよう配慮したものを選び、特別な日だけのお楽しみでも良いかもしれません。
あとは化石燃料の使用を減らし、ゴミを減らして自然に配慮した暮らし方をすれば、
豊かになった生物の多様性が地球を回復に向かわせてくれるはずなのです。
人による新しい技術ももちろん重要ですが、自然の安定がなくては豊かな暮らしはありません
生き物たちとの共存がなくてはそもそも人は生きられないのかも知れません。



文 わだち草 原田健次






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